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ちゃぶ台は日に日に大きくなる

【コラム】

心理的安全性のある組織では、「そもそも論」や「ちゃぶ台返し」発言が許されます。「そもそもこのプロジェクト要らないのでは?」などの根源的・根本的な問題提起です。

不祥事防止のためにスピークアップ(Speak up、異論を唱える)するということは、ちゃぶ台返し発言を恐れないということです。

このちゃぶ台は、日に日に大きくなります。

1 当日

上司の発言に異を唱えるのは、その当日であれば、抵抗感は低いです。

例えば、「先輩、その点、僕ちょっと腹落ちできてないんですけど、、」などと疑問点をぶつけやすいです。ひっくり返すちゃぶ台は、いわば「手のひらサイズ」です。

2 1週間後

1週間後になると、同じ内容を言うのは「今さら感」があり、憚られます。日に日に「今さら感」つまり心理的抵抗が大きくなります。

ちゃぶ台返しで例えると、実際のちゃぶ台サイズになって、ひっくり返すとお味噌汁がこぼれたりしてちょっと大変になります。

3 1か月後

さらに1か月も経つとどうでしょう。何十人、何百人も、取引先さえも、巻き込んでしまっている状態になり、、 もういまさらこんな青臭いそもそも論・ちゃぶ台返し発言は言えないな、、と感じられます。そして永久に発言できなくなります。

例えば、プロジェクトが始まって3か月も経ってから、部下から「先輩、このプロジェクトって、そもそも意味ないんじゃないですかぁ?」と言われたら、みなさんはどう思うでしょうか。

どんな温厚な上司も「おいおい、今さら言うなよ」と立腹するでしょう。茶道の師範も茶碗をかち割るでしょう。

つまり、ちゃぶ台が部屋のサイズくらいに巨大化して、重くて物理的にもひっくり返せなくなるイメージです。

このように、ちゃぶ台(今さら感)は日に日に大きくなります。

そのため、銘記すべきは、
Now or Never!
です。「今」言わないと、「永久に」言えなくなるおそれがあります。

違和感・引っ掛かりは早めにシェアしましょう。

スピークアップ・チャート

【コラム】

企業不祥事の主原因は、モノが言えないこと、つまりスピークアップ(Speak up)できないことです。ちょっと感じた怪しさ、何だかきな臭い不正の匂い、微妙な違和感、気になる引っかかり、、、これらに対してスピークアップできれば、不祥事が起こることはありません。

そこで、「どうやったらスピークアップできるか」を考えるために、人がどんなときにスピークアップし、どんなときにスピークアップしないのかをチャートにまとめました。
以下、3つの基準(①重大性、②露見可能性、③責任)があります。

① 重大性

まず、一番左の重大性から考えます。重大性は、ヤバいかヤバくないかです。
ヤバくない(=法律にも契約にも違反せず、顧客にも迷惑をかけない)ミスのとき、我々は殊更にスピークアップしないことが多いです。例えば、細かい誤植や、見えるか見えないか微妙な傷が製品にあるときなどです。これが一番下の「NO 3」に至るラインです。

② 露見可能性

次の基準は、②露見可能性、つまりバレるかバレないかです。
重大なミスであっても、露見しない(バレない)だろうとタカを括って、スピークアップしないことがあります。下から2番目の、赤字の「NO 2」に至るルートです。
バレなくても重大なミスはスピークアップしましょう。重大だということは、バレるおそれは必ずあるのです。「絶対にバレない重大なミスはない」と心得ましょう。

③ 責任

最後に、③責任です。
まず、重大な(ヤバい)ミスで、露見可能性がある(バレそうな)場合で、かつ自分に責任があれば、我々はスピークアップする方向に強く動機づけられます。図の一番上の「YES」のラインです。

一方、重大で(ヤバくて)、バレる可能性があっても、自分の責任でない場合、人はスピークアップしないことがあります。これが上から2番目の「NO 1」のルートです。
この「自分の責任ではないから言わない」のは、自己中心的で消極的なカルチャーが原因です。仲間意識が希薄だからです。

まとめますと、この赤字の「NO 1」(自分の責任ではないから言わない)と「NO 2」(バレないから言わない)でスピークアップしないことが、不正の原因です。
ですから我々は、「自分の責任ではなくても言う」「バレなくても言う」を身につければいいのです。

具体的には、「自分の責任でなくても言う」ため、仲間意識を高めましょう。
また、「バレなくても言う」ため、インテグリティを身に着けましょう。インテグリティの代表的な定義は「誰も見てなくても正しいことをする(Do the right thing even when no one is watching)」です。

消極的なカルチャーが不正の原因

【コラム】

最近の組織的な不正につき、調査報告書を読んで主原因を調べたところ、以下の2つが主原因であることが分かりました。
① 誤った正当化
② 消極的なカルチャー
の2つです。

会社 事案 正当化 カルチャー
2022年 日野自動車 認識不正 過去の成功体験に固執 事なかれ主義・思考放棄
2023年 沢井製薬 製品試験不正 モニタリング軽視 上司の指示に疑問を持たない
愛知製銅 品質不正 顧客に迷惑をかけない 消極的な身内意識
ダイハツ 認証不正 技術的に問題ない 自工程のみ。自己中心的風土
トヨタ自動織機 認証不正 タイトな納期優先 上司に相談しても無駄との諦め
2024年 グッドスピード 不正会計処理 予算達成・利益至上主義 上司指示に服従
パナソニック
インダストリー
認証不正 安全性・性能に問題なし 声を上げることができない
IHI原動機 燃料データ改竄 安全性に問題がなければよい 閉鎖的な縦割り風土
2025年 フジテレビ 中居
性加害
男女のプライベート 同質・閉鎖・硬直的で昭和的

① 誤った正当化

この「誤った正当化」は、要するに「下手な・醜い言い訳」です。ただ、どんな事例でも不正の必要性・根本的な動機はあり、それは要するに売上を立てたいということです。ゼニカネを儲けたいということです。その動機があるから、下手な言い訳をこしらえるのです。

営利企業では多かれ少なかれ営利の動機はあるため、私は殊更にその「誤った正当化」要因を責めようとは思いません。問題は、なぜそのような「醜い言い訳」を許したかということです。

② 消極的なカルチャー

醜い言い訳を許した原因が、②消極的なカルチャーです。上記表の最右列に列挙したような、「消極的」「自己中心的」「閉鎖的」「同質的・閉鎖的・硬直的で昭和的」な風土です。

フジテレビの事案では、シニアな男性ばかりの経営層が「オールド・ボーイズ・クラブ」(OBC)という言葉を用いて、旧態依然の「昭和的」という言葉で批判されました。
昭和が終わって36年経ちますが、調査報告書のようなシリアスな文書で、ネガティブな意味で「昭和的」という表現が使われたのは初めてではないでしょうか。

昨年からJTC(Japanese Traditional Company)という言葉が使われ、「伝統的な日本企業」の消極的で官僚的な姿勢が批判されるようになりました。そのうち、オールド・ボーイズ・クラブを表す「OBC」も使われるようになるでしょう。政界もOBCですね。

私は、JTCのOBCの昭和的な風土を打開するために、10年くらい前から白スーツを着ています。みなさまも、JTCのOBCの昭和的な風土を打開するために、何か始めませんか。
OBCが作る昭和的で消極的なカルチャーを変えるために、現在、拙著『インテグリティ』の続編『インテグリティが浸透するコンプライアンス・カルチャーの創り方』を執筆中です。ご期待下さい。

正邪と美醜の4象限

【コラム】

『組織不正はいつも正しい』(中原翔)と言われるように、「正しさ」は、時に歪み、暴走し、色褪せます。一方、「美しさ」は、歪まず、暴走せず、色褪せません。

組織不正を防止するためには、「正しさ」のみならず、「美しさ」も価値基準として持つ必要があります。
この「正しい」と「美しい」を、4象限で表すと次のようになります。

人間社会の都合で時に歪む「正しさ」は、横軸。世俗をヨコでイメージします。
精神的な価値を持ち歪まない「美しさ」は、縦軸。崇高さをタテでイメージします。

1 正しくて、かつ、美しいのが、右上の「高潔」。
2 正しいけど、醜い(美しくない)のが、右下の「小利口・小賢しい」。
3 悪くて、でも、美しいのが、左上の「愚直・愚鈍」。
4 悪くて、かつ、醜いのが、左下の「卑劣」。

現代社会は2(右下)の「小利口・小賢しい」に偏りがちです。
4(右上)の高潔にまで行けずとも、3(左上)の「愚直・愚鈍」を目指しましょう。

利口になるくらいなら愚直であるほうがいい。

宮沢賢治が皆に「デクノボー」と呼ばれようとし、スティーブ・ジョブズが“Stay Foolish”とけしかけ、ドストエフスキーが『白痴』の哀愁を謳い、老子が「大巧は拙なるが如し」と言ったのも、利口になるよりバカになることの美しさを説いたからです。

コンプライアンスとインテグリティの歴史

【コラム】

インテグリティというと日本人には新しい用語に聞こえますが、聖書訳にも使われるような古い言葉です。

He is a man of integrityという表現は、昔から英語圏では最高の褒め言葉です。和訳すると「彼は人格者だ」に近いです。

コンプライアンスがアメリカで盛んになる前、企業の不祥事防止対策として、インテグリティとコンプライアンスは拮抗していました。

組織の理想に向かう過程の中で悪い点を治す「太陽」のようなインテグリティ戦略と、悪い点をピンポイントで治す「北風」のようなコンプライアンス戦略の両者があったのです(2021年刊行拙著『インテグリティ』52頁)。

ところが、1991年にアメリカで連邦量刑ガイドラインが制定され、取締役がコンプライアンスプログラムを導入すれば株主代表訴訟から免責されることになりました。

そのため、訴訟社会アメリカの取締役の保身に好都合なコンプライアンスが、世界に広がりました。

しかし、取締役の保身は会社法で手当できるようになり(2002年商法改正における役員の責任軽減)、株主代表訴訟も少ない他国では、コンプライアンスの意義は薄れています。

むしろ、コロナ禍を経てテレワークが広がり、組織風土を消極的で他責的にするコンプライアンスのデメリットがより強く認識されるようになりました。

そこで、インテグリティの意義が再認識されています。

特にプライム上場企業では「インテグリティを知らなければ恥ずかしい」と認識されるようになりました。

当事者意識のみならず仲間意識

【コラム】

コンプライアンス研修の多くは、個人の倫理観に訴え、当事者意識を高めて「自分ごと」にせよと説きます。いい試みですが、「自分」や「当事者」という言葉には限界があります。

他人の仕事はやはり他人の仕事です。嫌いなライバルのミスを「自分ごと」にして、高い当事者意識で救える人はほとんどいません。人間はそんな聖人君子ではありません。

そこで、必要なのは仲間意識・チーム意識です。健全な仲間意識がないと、ライバルのミスを救うことはできません。自己中心的になります。当事者意識と仲間意識が両立してはじめて、圧倒的な当事者意識(ATI)が生まれます。

一方、仲間意識だけあって当事者意識がなければ、それは「連帯責任は無責任」になってしまいます。これを4象限で表すと以下のようになります。

当事者意識と仲間意識を上手く両立させましょう。Companyの和訳には、「会社」のみならず「仲間」もあります。I enjoyed your company.と言ったら、「君と一緒にいて楽しかった」という意味です。仲間と働くから会社なのです。

Companyの語源は、共に(con)パン(pani)を食べる、です。まずは同僚とランチしましょう。

廉恥心と羞恥心

【コラム】

終戦直後のルース・ベネディクト『菊と刀』で、日本人が持つ「恥」が、一神教的な「罪」と比較されました。そこでは、恥を羞恥心(恥をかくのを嫌がる気持ち=Shame)と捉え、罪より劣るかのように扱われました。

人が見ていなければ、罪悪感は感じても羞恥心は感じないため、罪悪感の方が広く感じられる(適用される)関係にあります。

しかし、恥には、羞恥心のみならず、廉恥心(恥を知る心=Sense of honor/dignity)もあり、新渡戸稲造は『武士道』でこの廉恥心を取り上げています。森鷗外『阿部一族』に活写されているような、家の名誉を守るイメージです。

羞恥心は人に見られているときに感じ、廉恥心は人に見られていなくても感じますから、羞恥心が外的・社会的で、廉恥心は内的・道徳的です。

罪にならなくても恥を知る場合はありますから、廉恥心は、罪悪感より感じられる場合が多そうです。

このような羞恥心と廉恥心の違いを考えると、インテグリティは廉恥心にとても近いです。テコンドー精神にある「インテグリティ」も廉恥と訳されています。こちら

インテグリティ・廉恥心・罪悪感・羞恥心の4つを比較すると、インテグリティが最も内的な深奥に関わる道徳的なもので、次に廉恥心、その次に罪悪感、最後に羞恥心が来ます。羞恥心が、最も外的で社会的な心情です。

インテグリティの定義が「人が見ていなくても正しいことをする」であり、羞恥心は人に見られるときに感じるため、こう比較するとインテグリティの位置づけが分かりやすいです。インテグリティは信念や美学に近いです。

昨今は廉恥心という言葉は使われず、羞恥心ばかりが使われています。これは日本人の道徳的な変化を表し、内的・心理的な規範よりも、外的・社会的な価値観を重視するようになったからと思われます。

インテグリティや廉恥心って何だろう、と考えるきっかけにしてください。

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